2008年11月の記事

尊厳死を認め,人口呼吸器をはずすよう命じた判決。但し韓国で。

2008年11月29日

朝鮮日報より。原文は韓国語。
http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2008/11/28/2008112801416.html

[社説] 国会が尊厳死を認める法を作る時が来た
ソウル西部地方裁判所が,脳死状態の75歳女性患者の家族が延命治療を中断するよう病院に対して起こした訴訟で “患者の回復可能性がなく生命維持治療が無意味であり,患者に苦痛だけを与えると判断される”と人工呼吸器を外すよう判決した. 問題の患者は去る2月,病院で気管支内視鏡手術を受けている最中に,肺血管が裂けて意識不明に陥った. 今回の判決は一審ではあるが,回復の可能性のない患者が延命治療なしに人間らしく死ぬことができる尊厳死の権利を認めた初の判決だ.
最高裁判所は1997年,保護者の要求で脳手術患者を退院させたポラメ病院の医師らに対して殺人幇助罪を適用して執行猶予の有罪判決を下したことがある. しかしその後尊厳死を認めなければならないという社会雰囲気が形成されるにしたがって,国内の大規模病院では末期患者が延命治療を受けないという ‘蘇生術拒否(Do Not Resuscitate・DNR) 誓約’をすればその意思を認める制度を慣行的に施行して来た. ソウル牙山病院の場合,毎年 150~200人の末期患者が DNR 誓約を通じて自然な死を迎えている.
今回の場合は,患者が手術の過程で一瞬のうちに脳死状態に陷り,尊厳死に関する自分の意思を明らかにした経緯がないことから訴訟に至った. これに対し裁判所は “患者が 3年前心臓病を病んだ夫の生命延長のための気管切除術(切開術?)を拒否した点と,平素から生命維持装置に依存することは嫌だと語っていたという事実を勘案すると,意識があれば延命治療を拒否したことが推定される”と治療中断判決を下した.
アメリカでは1989年,末期患者権利法が制定された後,不治の病や認知症にかかった時,どの程度まで治療を受けるかについて自分の意思を表明しておく ‘生前遺言(living will)’が活発になった. 日本も尊厳死宣言に署名した人が 10万名を越えると言う. 我が国民も 88%が尊厳死に賛成している.
回復の可能性が全くない患者に心肺蘇生術, 強心剤, 人工呼吸器などの延命治療をすることは無意味だ. 機械装置を何本も体に取り付けて苦痛の中で惨めな死を迎えることを望む人はほとんどいないだろう. 末期患者の蘇生術拒否誓約制度まで一般化しているというのに国会が尊厳死を認める立法をこれ以上先延ばす理由はない. 立法を通じて,どのような状況でどのような方法の治療中断が可能なのかを明確にしておくことが, 法と現実が異なるために生ずる混線を無くす道である.

日本の医療訴訟の判決文をいろいろ見ている立場から考えると,勇敢な判決だと感じました。

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亀田テオフィリン中毒事件,上告棄却,病院側敗訴確定

2008年11月25日

福島大野事件,割りばし事件などの陰になってほとんど話題にならないですが,重要な決定だと思います。

処置ミス、7300万円支払い確定 千葉の亀田総合病院
2008.11.21 18:31 – MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/081121/trl0811211832011-n1.htm
千葉県鴨川市の亀田総合病院でぜんそく治療を受けていた高校2年の男子生徒=当時(17)=が出血性ショックで死亡したのは処置のミスが原因として、両親が約8800万円 の損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第2小法廷(中川了滋裁判長)は21日、病院側の上告を退ける決定をした。病院側に約7300万円の支払いを命じた2審・東京高 裁判決が確定した。
2審判決などによると、男子生徒は平成13年1月1日未明、吐き気などを訴え受診。ぜんそく治療で病院から処方されていたテオフィリンの血中濃度が高いことが判明。処置の 過程で医師が脚の付け根にカテーテルを挿入した際、血管を傷つけたため、大量に出血、同日夜、死亡した。

千葉地裁の一審で出された鑑定意見に振り回されました。
最高裁第二小法廷で半年ほど前に,精神鑑定に関して,「専門家の鑑定意見は十分に尊重すべし」との判決を出しています。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=36327&hanreiKbn=01
上記はごもっともな判例だとは思いますが,医療訴訟における鑑定は,医療行為を行った専門家に対する専門家の意見であって,それらが対立する場合に鑑定の意見ばかりを尊重することには,私は疑問を持ちます。 上記判決に対して,某所で以下のような意見を書いたことがあります。

専門家の意見を尊重すべしという判断自体は至極当たり前の判断で、そもそも最高裁にこんな判示をさせるような高裁判決がどうかしているとは思います。
精神鑑定と通常の医療裁判の鑑定とを同一に扱っていいのかどうかということについては疑問があります。一般裁判の精神鑑定と、通常の医療裁判において鑑定の立ち位置の違い がちょっとあって、一般裁判における精神鑑定はそれ自体が第一回目の専門家による判断であるのに対して、通常の医療裁判における第三者鑑定は、専門家(=被告側医師)によ る第一回目の判断(=問題になっている医療行為)について、さらに重ねて専門家(=鑑定医)が判断するもの、つまり第二回目の専門家による判断なわけですね。ここで第一回 目の判断(被告側医師の判断)と第二回目の判断(鑑定)が異なる場合に、第二回目の判断を「鑑定だから」といって偏重するような判断の仕方は、正しい姿勢ではないのではな いかという疑問があります。

それ以前の問題として,意外なことですが,最高裁への上告においては事実関係はもう争えないことになっているので,地裁・高裁の判決文を見て激しく法律違反をしている部分などがなければ,そのまま上告棄却とされてしまうことが大部分です。この亀田事件でも専門家の鑑定意見を反映しており,さらに一通りの審議を遂行してある限り,上告棄却自体は”司法的には”やむを得ないともいえます。
この裁判の一審で提出された鑑定は,千葉地裁ご自慢の「複数鑑定」として、順天堂大学浦安病院の放射線科 住 幸治教授、腎臓内科 林野久紀助教授、血液内科 野口正章助教授が、文書にて回答したものです。この鑑定自体が疑問なことは間違いないと思うのですが,所詮は”後だし意見”である鑑定に大きな信頼を置くような司法のあり方自体のほうがよっぽど問題です。
この事件の詳細については,以下のページをご覧ください。
http://www.orcaland.gr.jp/kaleido/iryosaiban/H15wa202.html

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裁判員制度に「責任を押し付けるな」という理屈

2008年11月24日

私は裁判員制度には原則反対なのですが,それでも以下のような「責任を押し付けるな」と主張する活動には「どうかな~」と疑問を持つものです。

裁判員制度反対、各地でデモ 「勝手に名簿載せるな」
 来年5月から始まる裁判員制度に反対する弁護士や市民らが22日、仙台市、東京、福岡市で集会を開き、繁華街などをデモ行進した。反対行動は2月の日弁連会長選で制度廃止を主張した高山俊吉弁護士らが呼び掛けた。28日に裁判員候補者名簿に記載された人へ通知が送付されるため「通知が届いたら、勝手に名簿へ載せたと抗議しよう」などと訴えた。
 約600人が参加した東京都千代田区の集会で、新潟県弁護士会の高島章弁護士は「人を死刑にする権力を国民に担わせる制度だ」と批判し、漫画家の蛭子能収さんも「自由を束縛するので反対」と指摘。
 その後、約250人が銀座などをデモし「裁くことを押しつけるな」などと声を張り上げた。
 福岡市中央区天神の公園には弁護士や市民団体メンバーら約30人が集合。大分県豊後大野市の益永スミコさん(85)は「いや応なしに集められ死ぬまで秘密を守らせる制度は戦中と同じ。もうあんな思いはしたくない」と話した。制度をPRする検察庁のキャラクター「サイバンインコ」に対抗した着ぐるみ「裁判員制度はいらんインコ」も登場。参加者と一緒に天神をデモした。
 仙台市の弁護士会館に集まったのは約90人。東北大の小田中聡樹名誉教授は「裁判官らが主導・管理する司法に国民を強制的に動員し、被告に裁判の受け入れを強制する巧妙なシステムだ」と批判した。
2008/11/22 19:05 【共同通信】

日本国民として,それなりの義務があってもそれを一概にダメといっていては,そもそも国が成り立たなくなる場合だってあります。「人を死刑にする権力を国民に担わせる制度だ」と言っても,そもそもそのような権力は建前上国民の同意の上に成り立っているわけでして。
私が裁判員制度に反対する理由は,「先入観なく証拠を判断したり量刑を決めたりする裁判官の仕事は,簡単なものではない。長年の訓練を受けてようやくできるものであり,そこに一部とはいえ一般人が入って判断を任せることは,判断の誤りを招く原因になる。」というものです。付け加えるならば,「専門職である裁判官に失礼な結果につながるのではないか」というものです。
私は裁判員制度ができるくらいならば,医療にも医療員制度を創設して,一般人からくじ引きで医療チームに入ってもらい,医療の一部を担ってもらえばいいだろう,と思っているのですが,普通に考えればそんな制度は医療者も国民もまっぴらごめんだと思うでしょう。裁判員制度もそれと同様に思います。ただ,それが単に「責任の押し付けはやめろ」といわれて反対されることには,どうにも同調ができません。

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硫化水素の危険性

2008年11月16日

頂き物ですが,備忘録的に。

画像
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手術を延期して裁判員へ

2008年11月6日

裁判員制度がもうすぐやってくるわけですが,医者が選ばれた場合は辞退申し出に対して柔軟に対応するように法相に申し出たとのことです。

医療者の裁判員辞退に柔軟な対応を-日医
11月5日21時54分配信 医療介護CBニュース
 日本医師会の羽生田俊常任理事は11月5日の定例記者会見で、来年5月の裁判員制度の導入を控え、裁判員に選任された医師や看護師など医療従事者が辞退を申し出た場合には柔軟に対応するよう森英介法相らに要請したことを明らかにした。
 日医の会員から「裁判員に選任されたらどう対応すればいいのか」といった問い合わせがあるという。羽生田氏は「裁判員に選任されたら、医療従事者も応じなければならない原則があるが、裁判と同時刻に患者さんを診ていて行けない可能性が当然ある」と、要請の趣旨を説明した。
 羽生田氏によると、森法相に10月30日に文書を手渡したほか、島田仁郎最高裁長官らにも同月10日付で提出した。
 最高裁側からは、裁判員の選任権限は地裁の裁判官にあるため、当事者の申し出を受けて個別に対応を決めることになるとの説明があったという。

これに対して,岡口基一裁判官の「法曹関係者のためのHPです。」には,「特別扱いは無理でしょう。緊急性があるのは他の職業でも同じですからね。」というコメントが付けられました。
実際のところ,国家そして社会基盤の役割としては,司法が圧倒的に重要であり,司法の前では医療など単なる一職種に過ぎませんので,岡口裁判官のコメントはその通りだとは思うのですが,これが「患者さんの健康に関わる」というような場合には,どういう判断がされるでしょうね?
裁判員制度Q&Aを見ると,裁判員辞退の理由の一つに「事業上の重要な用務を自分で処理しないと著しい損害が生じるおそれがある。 」というのがあるので,結局は「特別扱いはしないが,患者さんの健康に著しい損害が生じるおそれがあるので辞退許可」ということになるのではないかと思うのですが,さてどうなりますやら…

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