令和4年3月11日: 東日本大震災トリアージ訴訟を掲載
カテゴリー「医療訴訟」の記事
医療裁判の判決のうち、医学的な部分は参考にすべきでない
2008年5月4日
以下の記事にコメントした医療問題弁護団の鈴木利広という方は、医療裁判の判決における医学的な事柄に関する指摘が、医療事故を減らすとは限らず、逆に医療事故を増やすことがあることをわかっていないようです。
2008年5月4日、NIKKEI NETより
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過失認定の出産医療事故、4割が陣痛促進剤使う
出産時に胎児が死亡したり、脳性まひになった医療事故で、裁判所が医療機関側の責任を認めたケースの4割は陣痛を促進するための子宮収縮剤を使っていたことが、医療問題弁護団(鈴木利広代表)の調査で分かった。裁判所は不適正使用のほか、胎児の心拍を監視する装置を使わなかったミスを認定しており、弁護団は「判決の指摘を再発防止に役立ててほしい」と求めている。
事故後に妊婦や胎児の状態や薬剤の投与量などを書き直すカルテの改ざんを認定されたケースも1割強あった。(07:00)
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少し前に書いた『裁判所が拡大に加担した「薬害肝炎」』のような例があります。
http://kaleidoscopeworld.at.webry.info/200801/article_3.html
恐ろしいことは、判決が医療事故を増やすときはその規模が甚大になる場合があるということです。
医療問題弁護団問題は、引き続き追いかけて行きたいと思います。
亀田テオフィリン中毒事件
2008年2月25日
今日、亀田テオフィリン中毒事件の症例検討会が開かれました。
事件は、千葉県の亀田総合病院という大きな病院で、テオフィリンという喘息の薬を常識外の大量服用したと思われる救急患者が、医師の努力むなしく死亡したという事例です。遺族が医療ミスだとして裁判を起こし、東京高等裁判所の判決で7000万円あまり(+利息)の損害賠償の判決が下りています。
その症例検討会を聴いてきたわけですが、亀田総合病院の治療には問題がなく、医療ミスなどというものとは無縁の、亡くなるべくして亡くなった事例だと確信しました。
それなのになぜ裁判では病院が負けたかといえば、一言で言えば裁判自体がお粗末だからです。この裁判の最大のお粗末さは、この裁判の病院側敗訴を決定付けた鑑定書を書いた医師を、裁判所で証人尋問していないことです。鑑定書を書いた医師たちが書きたい放題書いておきながら、反対側からの質問を十分に受け付けていないのです。(ちなみに鑑定書きは公務でしょうから、実名公開しても構わないと思うのですが、さしあたりは控えておきます。)
裁判がお粗末であるために、本来なら他の人々の医療使われるべき7000万円あまり(+利息)のカネが、本来受け取る資格がないと思われる人々に流れていきます。みんなのために使われるべきカネが、ごく一部の特定の人々に持っていかれるのです。
こんなことがまかり通るようでは医療が崩壊するのは当然です。
ところで、この裁判の原告側弁護士として福地直樹氏が筆頭に書いてあります。C型肝炎訴訟にもかかわる、医療問題弁護団に属する弁護士です。私は自分の中で勝手に「医療破壊弁護団」と読み替えています。
症例検討会の様子はこちらをご参照ください。
http://lohasmedical.jp/blog/2008/02/post_1088.php
判決文についてはこちらをご参照ください。
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20071225
REMEMBER 2.18 ~第2章~
2008年2月18日
福島大野病院事件で医師が逮捕されて2年がたちました。
「癒着胎盤の経験もなく、帝王切開で女性を死に至らしめた」との容疑で医師が逮捕され刑事訴訟になり、長い時間をかけて結審に向けて動いています。
刑事裁判でのやり取りを読めばわかりますが、逮捕された医師になんら落ち度はなく、女性は出産にまつわる自分自身の病気が原因で亡くなったのであることがほぼ確実です。
http://lohasmedical.jp/blog/2007/11/101.php
例えば、大怪我をした人が病院に駆け込んだからといって、必ず助かるものではないですし、ほかの病気だって同じことです。病気というのはそういうものです。医師の努力むなしく命を落とすことなど日常茶飯事です。
要はこの事件もそういうものだったということです。それを医療過誤だと糾弾され、逮捕・起訴されるようでは、医療行為などというものをやる人がいなくなるのは当然と言えます。
この女性の死亡原因究明はなかなか難しいところがあるようですが、逮捕された医師の医療行為が妥当であったことは、学会シンポジウムなどで検討すれば、それこそ十数分~数時間程度で明らかになる簡単なものだったと思われます。
ところがそんな簡単な結論を出すのに、逮捕・起訴して何年も裁判に時間をかけて、当該医師の医師生命を縮めて、その他大勢の医師を恐怖に落とし入れたため、危険を伴う分野から医師が逃げる結果となり、医療崩壊を急速に推し進めました。当の福島県では、県立病院からついに産婦人科が完全撤退することとなったそうです。
それにも関わらず亡くなった女性の遺族は、終盤に突入した法廷ですら、
「言い訳や責任転嫁せず、何をミスしたかを真正面から受け止め、責任を取ってほしい」
「なぜ妻が死んだのか疑問に思う。自分の行動・言動に責任を持つのは大人の人間として当然のことだ」
「○○先生の行為は許せない」
などと、相変わらず医師を非難するばかりなのです。これらの発言が、事件を見守る全国の医師をさらに激怒させています。
女性が亡くなられたことは本当に残念なことですが、医療は病死を完全に防げるものではありません。いまだに医師の責任を追及しようという遺族には、病死であることを認めることなく医療過誤だと誤信して、警察に相談して逮捕・起訴に結びつけ、今の医療崩壊の最大の引きがねを引いた責任を取って欲しいとすら思います。
一方検察の振る舞いについては、昨年も書きましたが最後まで監視し続ける必要があります。また、実名公開される刑事事件にならって、この事件を起こした人物として、当時の福島地検の最高責任者であった宮成正典(みやなり まさのり)検事正の名前は、記録しておいて良いのではないかと思います。
また、この事件で医師が逮捕・起訴されることが不当であったこと、そしてこの遺族の態度が医療崩壊の原因になっていることを、医療関係者でない一般の人々が理解しない限り、現在進行中の医療崩壊は止まることはないと言っても過言ではないと思います。
次はあなたが医療崩壊の影響を受ける番かもしれません。
裁判所が拡大に加担した「薬害肝炎」
2008年1月20日
未だ紛争の火がくすぶり続ける、いわゆる「薬害肝炎問題」。実は「被害」の拡大に、だいぶ昔に出た裁判の判決が加担していたようです。
「もっと早く輸血をすること、未然にフィブリノゲンを投与すること」という趣旨で、患者死亡に対する医師の責任を認めた東京地裁判決昭和50年2月13日です。この判決が、日本でのフィブリノゲン濫用につながったとの指摘があります。
確かに、当時の法律雑誌では以下のように評論されています。
「なお、出産に際しての医療事故は多いといわれているが、裁判例となったものは少なく、東京地判昭和48年9月26日、東京地判昭和39年3月29日が参考とされる。」(判例タイムズNo.324,248頁)
「輸血に関する医療過誤の事例としては、(中略)、輸血の時期に関する事例は珍しく、その点からも本判決は先例となるだろう。」(判例時報774号,91頁)
確かに大きく参考にされ、大変な先例になってしまったようです。
ちなみに上記の判例時報には判決の概要が以下のように示されています。
「判旨は、輸血開始時期としては、出血量において1000ミリリットル以上になったとき、あるいは、最高血圧が70mmHg(出血状態が続いている場合は90mmHg)に低下したときが適当とであるが、本件では、午後6時40~50頃の時点で既に合計650ccの出血があり、なおも少量の血液が持続的に流出している状態で、7時25分以降最高血圧が80mmHg、7時50分には同50mmHgとなったのであるから、少なくとも7時25分以降速やかに、以下に遅くとも8時ごろまでには輸血が実施されるべきで、8時50分に開始したことは遅きに失しており、その他に、線溶阻止剤等の投与、新鮮血輸血についての配慮も欠けたと判示している。」(注:「線溶阻止剤等」は、判決文では「線溶阻止剤や線維素原」として線維素原(フィブリノゲン)を併記している。)
また、判例タイムズでは以下のように評されています。
「本件に合っては、結果を回避させるための施術として、時宜にかなった輸血が必要であるとしているが、輸血には、血清肝炎、供給体制等、ひとり医療に限定することのできない大きな社会問題を孕んでいるといえるところ、本判決は、診療当時の産科医学会の関係論文にも配慮し、当時の医学レベルに立返って、詳細な資料に基づいて過失の認定を行っている点極めて慎重な姿勢が窺われる。」
慎重に検討した結果、「薬害肝炎」を拡大する原因になってしまいました。
この判決は高等裁判所で覆され、医師の責任は無いものとされており、結局のところ「薬害肝炎」を拡大するだけの判決ということになってしまいました。
医療では、残念な結果があれば症例検討会で原因を検討するのが慣わしになっています。
司法はどうでしょうか? この判決のように甚大な被害を引き起こした判決を、どうして出してしまったのかを検討したでしょうか?
こういう事情を知ってみると、現役裁判官が書かれているのであろうこれらの文章は、どんなものだろうかと思ってしまいます。
http://blog.goo.ne.jp/j-j-n/d/20071216
http://blog.goo.ne.jp/j-j-n/d/20071223
事件概要はこちらです。http://www.pmet.or.jp/jiko/06yuketu0001.html
判決文はこちらにあります。http://www.orcaland.gr.jp/kaleido/iryosaiban/S44wa1117hanketsubun.html