令和4年3月11日: 東日本大震災トリアージ訴訟を掲載
白内障の手術で、失敗するリスクはあるの?
「失敗」と言い切るのには抵抗がありますが、何しろ目玉を切る手術ですから、100%絶対の安全はありません。また、どんなに手術がうまく出来ても、別のことで目がダメになってしまう危険もゼロではありません。さらに言えば、手術が成功したのに、手術後の見え方に不満が残る場合もあります。悪い結果に終わる可能性は決して高くありませんが、一応の覚悟というか決心は必要です。以下に白内障手術のトラブルの例をいくつか紹介します。
1. 駆逐性出血 (駆出性出血、脈絡膜出血とも言う)
手術中、前触れなく突如として目の奥から出血が起きるもので、手術する医者に落ち度がなくても起きます。一度出血が始まると、出血の勢いで目玉の中身がメスの切り口から一気に飛び出してきて、失明かそれに近い状態になってしまい、回復もほとんどありません。ただ、実際に起きる確率は数万人から数十万人に一人と言われており、ほとんどの医者は実例を見たことがなく,聞いたことがあるだけだと思います。私を指導してもらった大先生も、これまでに1万人以上の手術をしたにもかかわらず、これまで一度も見たことがないそうです。
2. 術後感染症 (術後眼内炎)
手術がきれいに出来て、良く見えるようになったにもかかわらず、手術中に目の中に残ったばい菌が増えて、あるいは手術後に切り口の隙間からばい菌が入って、目の中が膿んでしまうものです。数千人に一人に起こるといわれています。膿が強い場合は目の中の膿をあわてて掻き出す緊急手術が必要です。どこまで回復するかはさまざまで、良く見えるまで回復する場合もあれば、失明かそれに近い状態になる場合もあります。手術の最後に目の中をよくすすぐことと、手術後に抗菌目薬をしっかりさすことで予防しますが、ばい菌の勢いが強ければそれでも起きてしまう場合があります。
3. 後嚢破損
手術中に、水晶体の殻の裏側が破れてしまうことです。手術する医者や手術の方式によってさまざまですが、平均すると100人中1人前後に起きます。もっとも、後嚢破損だけでは失敗には入りません。
白内障の核を取り終わる前に後嚢破損が起きると、その破れ目から白内障の核が目の奥に落ちていってしまうことがあり、これを「核落下」と言います。落ちていった核は、通常の白内障手術では取り除くことが出来ないため、落ちていった白内障の核の量や大きさによっては、それを掻き出すための別の手術を受ける必要があります。
後嚢破損の破れ目が大きい場合は、その場で眼内レンズを入れると、眼内レンズが破れ目から目の奥に落ちていってしまう恐れが出るため、眼内レンズを入れないで手術を終わることがあります。多くの場合は手術後しばらく経過すると、水晶体の殻が落ち着いてきて、改めて眼内レンズを入れることが出来るようになります。
後嚢破損があると、先に説明した駆逐性出血や術後感染症、あるいは網膜剥離や網膜変性の危険が少しあがるという話もあります。後嚢破損は慎重に手術をすることによって起きる回数を減らせるので、手術する医者は細心の注意を払って手術をします。ただし、それでもどんなにうまい術者でも後嚢破損が起きる回数をゼロにすることはできないので、手術を受ける方もその点は覚悟が必要です。
4. チン小帯断裂
水晶体が目の中に納まっている様子は、トランポリンにたとえられます。トランポリンのマットがフレームからゴムで吊られているように、水晶体が茶目の裏側からチン小体というセンイで吊られています。そのトランポリンのゴムにあたるチン小帯がぶちぶちと切れてしまうことをチン小帯断裂と言います。正常ではチン小帯は結構強いセンイなので簡単には切れませんが、中にはチン小帯が弱い人がいて、どんなに慎重に手術をしてもチン小帯がぶちぶちと切れてしまう人がいます。ごく一部が切れただけなら通常とほとんど変わりなく手術を終わることができますが、広い範囲でたくさん切れた場合、水晶体の殻の支えが弱くなって、水晶体の殻の中に人工レンズを入れられなくなります。その場合は、後日落ちついてから人工レンズを目の中の壁に縫い付けるか、あるいは我慢してコンタクトレンズで対処します。
5. 水疱性角膜症
角膜の裏面には、角膜を透明に保つための、重要な細胞が並んでいます(角膜内皮細胞)。手術中にそこを痛めて、細胞の数が極端に減ると、角膜の透明さが保てなくなってしまい、角膜移植を受けなくてはならなくなるので、それを避けなければなりません。
目の怪我などのために角膜内皮細胞がもともと少ない人の場合は、手術後に角膜が混濁することも覚悟の上で手術を受ける必要があります。角膜が混濁した場合には、視力が極端に落ち、落ちた視力を回復するために、角膜移植を受ける必要があります。その場合、数年前までは角膜全層を移植していたのですが、現在では、角膜内皮細胞の部分を中心に移植し、角膜移植の危険性もだいぶ改善しました。
6. 手術が成功したのに、手術後の見え方に不満が残る
白内障の手術では、濁った白内障を取り除いて、シリコンやアクリル製の人工レンズを入れます。白内障の濁りが取れたお陰なのか、人工レンズの影響なのかはわからないのですが、手術後に眩しさを感じられる人がまれにいます。また、視界が輪で区切られているようだとか、飛蚊症が気になるようになったなどの不満もお聞きすることがあります。手術後に目の度数が変わって、それが不満に思われる場合もります。これらのことは、どんなに手術が上手な医師が執刀しても起こりうることですし、しかも手術自体は成功しているのですから、ほとんどの場合は決定的な解決策がありません。多くの場合、サングラスなどでだましだましの対策をして過ごすことになりますが、不満を抱えたまま一生を過ごされる方もいらっしゃるようです。手術が成功したにもかかわらず、「こんなことなら手術を受けなければ良かった」と言われて、こちらもがっかりすることがあるわけです。とは言え、手術前には手術には危険を伴う話も聞かれているはずですし、手術そのものに問題があるわけでもないのですから、それ以上どうしようもないというのが現実です。
平成23年3月13日更新。平成23年6月8日、5を追記。平成25年2月4日、前回追記した5を6に変更し、新たに5を追記。