令和4年3月11日: 東日本大震災トリアージ訴訟を掲載
亀田テオフィリン中毒事件、鑑定抜粋
この鑑定は、千葉地裁ご自慢の「複数鑑定」として、順天堂大学浦安病院の放射線科 住 幸治教授、腎臓内科 林野久紀助教授、血液内科 野口正章助教授が、文書にて回答したものです。「複数鑑定」と言いながら、各分野一人ずつの鑑定では複数の名に値しないことは明らかであり、しかも鑑定人に対する質疑応答(いわゆる尋問)もなく、その信頼性に疑問があります。
鑑定書概要
I(1) テオフィリン中毒の影響はどのようなものか
→ (血中濃度で分類された、型どおりの回答)
I(2) 誤検査の可能性
→ 断定できない
I(3) その理由
→ 得られた証拠からは検証できないが、半減期や中毒症状などから適正であった可能性が大きい。
I(4) 裏づけは?
→ テオフィリン中毒を裏付ける症状が認められる。
II(1) 血液吸着時のフサンの使用は禁忌か?
→ 禁忌ではない。
II(2) 2回の血液吸着で回路内凝固した原因は?
→ 抗凝固剤の作用不足。
II(3) (2)の原因は2回の血液吸着とも同じか?
→ 同じ。ただし抗凝固剤を少量から使用したことは止むを得ない。
II(4) 回路内凝固は、循環動態、血液凝固に対して影響を与えるか?
→ 強制的に返血しない限り、大きな影響を与えない。
II(5) フサンの使用は適切であったか?
→ 必ずしも適切ではない。しかし、フサンの使用量は最初の1時間に100mgと通常よりかなり大量であり、フサンの吸着を考慮した上での抗凝固作用を期待したものと考えられる。
III 痙攣の原因は?
→ テオフィリン中毒である可能性がある。
IV(1) カテーテル穿刺後に、シリンジで凝血塊を認めたことで肺塞栓を疑ったことは適切か?
→ 適切。
IV(2) 肺塞栓の可能性は高かったか?
→ 低かった。
IV(3) (1)の診断を前提として、肺塞栓の治療にヘパリンを直ちに投与する必要はあったか?
→ 必要だった。
IV(4) 午後5時10分に投与したヘパリン5000単位は、出血に対していかなる影響があったか?
→ 抗凝固剤なので、多少の悪影響があった。
IV(5) (1)の肺塞栓の前提で、ヘパリン5000単位の投与は適切だったか?
→ 適切だった。
V(1) 後腹膜腔、小骨盤腔、膀胱壁、膀胱腔内の出血の原因は?
→ 右大腿静脈よりのカテーテル挿入の不適切による、動脈血管損傷。
V(2) CTから何がわかるか?
→ 動脈血管損傷。
V(3) その場合の出血量は?
→ 約2000ml。
V(4) 動脈出血の止血は可能だったか?
→ 現実的には施行困難だったと考えられる。
V(5) テオフィリン中毒が出血に影響するか?
→ しない。
VI(1) クロスマッチの省略は可能か?
→ 急性の場合には例外的に可能である。
VI(2) フィブリンの析出と、テオフィリン中毒の可能性を考えて、クロスマッチの省略は可能か?
→ 可能。フィブリンの析出があっても血清クロスマッチは可能。
VI(3) クロスマッチが固まらないとの報告があった時点で、以降の検査を省略して輸血を開始すべきであったか?
→ 血漿または血清クロスマッチは省略可能。遠心分離して血漿クロスマッチが可能で
あった。緊急性が極めて高く、クロスマッチそのものを省略することも(例外的に)可能であった。
VII(1) 3次施設では、緊急検査対象としてフィブリノゲンは含まれているか?
→ 一般的には含まれている場合がある。
VII(2) 消費性凝固障害の診断において、フィブリノゲンの数値は不可欠か?
→ 不可欠ではない。多くの場合は PT, APTT, FDP, 血小板の数値と出血状態から診断可能。
VII(3) (2)で可能なら、午後8時35分頃の時点で、消費性凝固障害を発症していたと認められるか?
→ 認められる。
VII(4) 本件の輸血成分は適切だったか?
→ 適切であったとはいえない。アルブミン、赤血球のみならず、血小板、新鮮血(?)も輸血が望ましかった。ただし血液凝固障害の状態ではヘパリンは禁忌。
VIII(1) 血液凝固障害に対し、テオフィリン中毒が影響していたか?
→ あまりしていない。文献的に報告がない。他に血液凝固障害の原因がありうる。
VIII(2) 血液吸着療法の過程での凝固因子の消費ないし活性炭自体への吸着、ヘパリン5000単位投与、血管損傷による出血は、それぞれ血液凝固障害に影響を与えたか?
→ 血液吸着療法の過程での凝固因子の消費ないし活性炭自体への吸着、ヘパリン5000単位の投与は大きな影響を与えなかった。しかし動脈血管損傷による急性出血が大量であれば、出血性ショックとなり影響を与えた可能性がある。
補充鑑定書の要約
第1 テオフィリン中毒について
1
(1)半減期が9時間程度は、血中濃度が正常範囲の場合ではないか?
→ 半減期9時間は正常濃度の場合です
(2)テオフィリンの血中濃度が50μg/mlを超えると、半減期はきわめて長くなるのでは?
→ 高濃度では半減期は長くなるかもしれない
(3)16時58分に62.88となったのは、肝代謝だけではなく、処置によって減少したと言えるのでは?
→ そうであればある程度有効であったと言える。
2
(1) テオフィリン中毒で、痙攣発生と難治性不整脈とが出現する濃度、どちらが高い?
どちらとも言えない。
(2) テオフィリン中毒で痙攣が起きると、身体にどのような影響が?
1回ないし2回の痙攣は予後良好のようだ。繰り返す痙攣、高齢、COPD、低アルブミン血症は予後不良。
(3) テオフィリン中毒で痙攣が起きた場合の致死率は?
→ 29例中4例。死亡率13%。しかし死亡例は全員不整脈の合併症が原因のようだ。
3 鑑定書にはテオフィリンの心毒性への言及がない。これについての説明を。
頻脈はその影響と思われる。文献によると、心毒性は痙攣より頻度が高い。
第2 出血原因について
1 「カテーテル挿入時の動脈血管損傷が疑われる」とあるがどの部位の動脈か。
2 被告は、穿刺部位には動脈損傷はなかったと主張している。仮に動脈損傷があったとすれば、その部位について被告は、画像から測定したところ血腫が確認できるところから、穿刺部位から約5cm頭方、腹壁から約6cm下のあたりで動脈を損傷し、その点は穿刺部位から約7.8cmのところになると主張している。しかし、穿刺部位から約7.8cmの部位を、ダブルルーメンカテーテルにより損傷することが可能か?
3「正確に静脈内に留置されていない」とあるが、ではどこに留置されているのか?
4 被告は、カテーテルが右そけい部に刺入されているのを捕らえている。
カテーテルがハレーションを起こしていると理解している。これを考慮すると、カテーテルは静脈内に留置されていると判定できないか。
5 カテーテルから約9リットルの輸液が行われたと主張している。血管外に存在すると仮定すると、輸注した薬液が腹腔内に貯溜すると思われるが、この理解でよいか。
6 5で、輸注した薬液が腹腔内に貯留するとすれば、病理解剖において貯留した薬液を確認できると思われる。しかしこれが確認されていないとすれば、カテーテルは血管内に留置されているという結論にならないか。
7 出血の原因が動脈血管損傷だとした場合、膀胱からの出血とはどのような関係になるか。
まとめて→
8時16分頃に施行された造影CTについて、当日の放射線科の報告書などが見当たらず、静脈内に留置されたカテーテルより造影剤が投与されたのか、それとも他の末梢静脈より投与されたのかがはっきりしません。その情報があればもう少し明快に判定が可能と思われます。但し、カテーテル内より造影剤が注入されたにしても、抹消より注入されたにしても、穿刺部位より約3cm頭側で造影剤の血管外漏出が認められており、同部付近の脈管の損傷が予測されます。急激な血腫の形成と血管外漏出が著しいことより、動脈の損傷と考えましたが、カテーテルより造影剤が注入されているとすれば、静脈性の出血の可能性もあります。但し、損傷部位については、穿刺部位より約3cm頭側のスライスで血管外漏出が認められており、穿刺の際の動脈損傷は否定できないものと思われます。
カテーテルの位置については、穿刺部では、静脈内にあるものと思われますが、より頭側のスライスでは大腿静脈の腹側に、さらに頭側のスライスでは大腿静脈の左側に位置しており、ハレーションを考慮しても、なお、穿刺部位より3cm頭側で静脈を損傷し静脈外に留置されている可能性が高いと思われます。また、動脈あるいは静脈の損傷がなければ、CTで認められる造影剤の血管外漏出は起こりえないと思われます。また、前回も述べたように、血腫は基本的にはカテーテル周辺を中心に形成されています。膀胱出血の機序に関しては、脈管損傷との因果関係については不明です。
第3 その他
1 鑑定書19ページに、「消費性凝固障害の原因として、急性出血によるショックがありうる」とある。
しかし被告は、カルテ記載から、ダブルルーメンカテーテルを挿入したときに、その穿刺した血液がシリンジ内で凝固し、さらに、その直後に大動脈から採血したときもシリンジ内で凝血塊が出来ていると主張し、争っている。被告主張の事実を前提とすれば、ダブルルーメンカテーテルで動脈を損傷したか否かに関わらず、ダブルルーメンカテーテル挿入時点では既に過凝固状態が生じていると判断できないか。
被告の主張の事実が前提でカテーテル挿入、採血方法が適切であれば言える。
2 1でダブルルーメンカテーテル挿入時点で既に過凝固状態が生じているとすると、その原因は何と考えられるか。
不明
3 1で、ダブルルーメンカテテール挿入時点ですでに過凝固状態が生じていたとすると、肺塞栓の発生を疑うことは不合理ではないと考えるが如何か。
不合理ではないと思う。