令和4年3月11日: 東日本大震災トリアージ訴訟を掲載
医療問題弁護団問題 ~6~
事件番号 | 終局 | 司法過誤度 | 資料 | |
一審東京地裁 | 平成20年(ワ)第22982号 | 判決平成23年3月24日 | 妥当 | 判決文 |
二審東京高裁 | 失念 | 判決 | 妥当 | |
最高裁 | 失念 | 不受理 | 妥当 |
医療問題弁護団の代表である鈴木利廣弁護士は、各所で医療者側に対して厳しい提言をされているようなのですが、お忙しいからなのか、週に1~2回は東京地裁に出かけている私でも、法廷でお見かけする機会はこれまでなかったように思います。お見かけすることはなくても、せめて事例を見てみたいと思った私としては、とりあえず判例検索でヒットした事件数件のうち、一番新しい事件を閲覧してみることにしました。そうして選ばれた事件がこの事件です。さてどのような事件だったのでしょうか。
原告らは、被告大学病院で平成18年1月に大腸癌および肝癌の手術を受け、その年の5月に71歳で亡くなられたAさんの遺族でした。まずはAさんのご冥福をお祈り申し上げます。事件を大雑把にまとめますと、Aさんは以前にも被告大学病院で胃癌と腎癌の手術を受けていたため、癌再発の有無の確認のために定期的に検査を受けていたところ、平成17年2月の検査で 癌胎児性抗原(CEA)という項目が軽度上昇していたのに、更なる精査や治療が遅れたことと、最終的に行うことになったラジオ波焼灼術(RFA)の説明がなかったこととを遺族が訴えたものです。一審判決では、CEAが軽度上昇していたことに対して担当医は通常の対応をしており、またRFAに関する説明の点については、そもそも遺族から、厳しい話はしないで欲しいという希望もあったことなどもあり、不適切だったとは言いがたいと判断されました。遺族側が控訴しましたが高裁でも敗訴し、最高裁には受理されず、遺族側の敗訴が確定しました。なお、事件の概要がこちらのページにあり、また一審の判決文は判例タイムズ1362号に掲載されています。
判決文を普通に読めば、普通の医師なら「こんな無理筋の事件でよく訴えてくるなぁ」という感想を持つだけの事件だと思われましたが、裁判記録を見れば何か発見があるかも知れないとの思いで、裁判記録を閲覧してみました。そしたら、ちょっと驚きの事実がありました。
この事件では、提訴前に診療録の証拠保全がなされ、そして外部調査委員会が設けられ、事故調査がなされました。どういう経緯か詳細は不明ですが、被告大学病院以外にも 3大学からの調査報告書が出ており、それらを読むとどう考えても被告大学病院の責任は認められないだろう、と思わざるを得ないものでした。実際それら調査報告書は、一審判決文の中で繰り返し参照されており、被告大学病院の責任を否定する判断材料となったことが窺われます。
そんな調査報告書があるくらいですから、これはもう最初から勝ち目の薄い事例だろうと思われるわけですが、驚くべきことは、それら調査報告書を提出したのは被告大学病院側ではなく、なんと遺族側だったということです。それも裁判の一番最初に、訴状と同時に提出していたのです。「リピーター医師、なぜミスを繰り返すのか?」(貞友義典著)には、以前にブログで紹介したように、「わざわざ自分たちに不利な私的鑑定書を出す馬鹿はいない」と書かれていましたが、この事例はどうでしょうか。本件の調査報告書は最初から被告大学病院側も持っていたと思われますから、その点では相手方と関係なく作成されるような純粋な私的鑑定書と同一視はできないため、「貞友義典弁護士なら馬鹿と言うだろう」とまでは言いませんが、判決文で被告大学病院の責任を否定するために繰り返し参照されるような調査報告書を持っていながら、こうやって提訴して最高裁まで突き進むなどということは、これは医療問題弁護団の代表がやる仕事なのかと、思わず眉をひそめたくなります。余りにあからさまなので、もしかしたら御大の鈴木利廣弁護士は、当初は受任していなくて、既に他の弁護士らが担当して苦戦しているところにテコ入れするために、途中から加わったのではなかろうかなどと心優しいことも考えてみたのですが、委任状を確認したところ、他の弁護士らと同時に提訴当初から受任していました。
既に医療問題弁護団シリーズとして書いてきたように、医療問題弁護団にがっかりさせられることはしばしばありましたが、代表が加わっていてもこの有様では、もはや言葉が無いというものです。こんなことを書くと「弁護士の仕事を理解していない」などと言われるかも知れませんが、現状では、それはお互い様ということでまとめておきたいと思います。ここでいう「お互い様」には、相当に深い意味を持たせていますが、それはまた追って触れて行きたいと思います。
なお、それら報告書は、判決文で「甲B1の2」、「甲B1の3」として参照されています(「甲」というのは原告提出の書証を意味しています。)。原告側から、その他に医師による意見書らしきものは提出されていませんでした。
平成25年5月6日記す。
追記(平成25年6月6日)
裁判所サイトに判決文が掲載されました。